【インタビュー】避けられぬ歯科訪問診療(第2回)

インタビュー

2022/06/27

歯科医師 菊谷 武 先生
・日本歯科大学 教授
・口腔リハビリテーション多摩クリニック 院長
・大学院生命歯学研究科 臨床口腔機能学

高齢化に伴う在宅療養者の増加により、歯科訪問診療はこれからの日本において避けて通れない課題になっている。しかし、外来診療を基本として成り立ち発展してきた歯科医師、歯科衛生士にとって歯科訪問診療を学ぶ機会はそう多くない。「歯科訪問診療総合研修講座」(主催・メディア)の講師を昨年に続き務める日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長の菊谷武氏に、これからの歯科医療における訪問診療の必要性や実践での問題点などを聞いた。

 

――そのためのウェブセミナーを実施していますが、先生方がそれを実践するのは難しいものですか。

 寝たきりの人の根管治療するのも元気な人の根管治療するのもテクニック的には大差ないと思います。問題はその根管治療の目的は何なのか?そもそもする必要があるのか?説明ができなければならないと思います。
 その判断をするにあたっての考え方を根本的に変える必要があります。そこのコンセプトの違いが一番大きいと思います。歯科治療に対するものの考え方を変えることができれば対応できるはずです。

 

――食事観察や機能評価、摂食機能療法、食事指導などの多職種連携が求められてくると思うのですが。

 訪問診療を受ける側がそれを求めてくるので、そうした臨床知識は必要になってきます。介護報酬には歯科医師を参加させて、施設の中で歯科医師がカンファレンスをすると、施設側は介護保険で算定できます。
 施設側はこれらの制度を根拠にして歯科医師には患者さんが食べるところまでを観察してもらいたいと思っています。義歯を作るだけ、口腔ケアをするだけでは参加してもらう意味がないくらいに思っていますが、それに正しく対応できる訪問の歯科医師が多くないのも現実です。

 

 

――日本の社会状況や歯科医療を取り巻く環境を考えると、歯科が生き残る道は在宅療養者への訪問診療しかないと思うのですが。

 昔の成功体験にしがみつき、社会や病態、人口構造の変化に歯科大学も含め、歯科医師が付いていけなくて、「患者が減った。患者が減った。」と、右往左往している現状です。学生にもそういう話をするのですが、大学教育の影響なのか彼らの憧れがそこにないのも確かです。

 

――歯科訪問診療のウェブセミナー開催で歯科医師に変化は感じますか。

 その変化を知るためにも主催者側にアンケートをお願いしたいですね。質問としては、「1回目を受講してさらに学び直そうとしている方と、これからやろうとしている方の割合」、「セミナーを受講したことで自身の診療内容に変化があったか」、「セミナーを受講して訪問診療を始めようと思ったが挫折したか」、そして、訪問診療に診療人生を没入したいと思った人が何人いたかを知りたいですね。
 さらに、前回のセミナーを受講してもらったことで新しい世界を見てもらったわけです。これによって新しいサジェスチョンを感じたかどうかも知りたいですね。
 3月4日に発表された厚労省の資料によると、施設への歯科訪問診療は増えているのですが、在宅の歯科訪問診療は増えていないとの結果が見られます。経営判断での歯科訪問診療というのが垣間見られます。
 また、施設で行われている訪問診療で最も多いのは口腔ケアで、在宅では歯科治療としての義歯の作成が最も多いとの結果が見られます。在宅と施設療養者の口腔内の状態にそれほど大きな違いがあるとは思えないので、やるべきことをやっていないという恐れがあります。
 われわれが行っている在宅療養者への訪問診療は体が動かなくなり、喋れなくなったりした人たちへの診療なのです。さらに、中には、余命あと1、2年、あるいは数カ月という人たちにどういう歯科医療を提供するのかという歯科における終末期医療なわけです。

 

――先生方が歯科訪問診療を本気になって学ぶとして、臨床現場で実践できるようになるにはどのくらいの時間がかかりますか。

 歯科治療の技術的な問題はそれほどに変わるものではないので、やるかやらないのかの考え方の根本が変わればいいだけです。不足している在宅療養者の訪問診療歯科医師を補うためにも多くの歯科医師に参加してほしいので、敷居を高くしてもしょうがないと思い、理解がしやすいように講座内容も工夫しているので、そんなに時間はかからないと思います。

 

【インタビュー】避けられぬ歯科訪問診療(第1回)

 

【歯科訪問診療を総合的・体系的に学ぶ】歯科訪問診療総合研修講座 -導入コース-

 

※日本歯科新聞 2022年3月15日号掲載記事

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