【インタビュー】骨粗鬆症と歯科との関係(第1回)
インタビュー
2022/03/14

歯科医師 田口明 先生
・松本歯科大学歯学部歯科放射線学講座 主任教授
・同大学院歯学独立研究科硬組織疾患制御再建学講座 教授
・松本歯科大学病院放射線科 科長
・香港大学歯学部 名誉教授
—— 田口先生がセミナーに期待するものはなんですか
田口 医科歯科連携が叫ばれ、動き出していますが、未だ全国的なものにはなっていないと考えています。33年前から歯科疾患にも大きく関係する骨粗鬆症について研究していますが、広く認知されているとはいえません。
今回のセミナーでは、歯科医師の方々に骨粗鬆症とはどのような病気なのかを学んでいただき、医科歯科連携の出発点にしていただければと考えています。また、医科の先生方にも聴講して頂くため、講師には骨粗鬆症を専門とする医科の先生方にもお願いしました。
—— 講演回数は17回、1年数カ月の期間をかけて実施されます。これからの医科歯科連携を考える上でこの分野はそれだけ重要なわけですね。
田口 その通りです。歯科のパノラマX線写真で骨粗鬆症患者をスクリーニングする手法の開発と普及に30年以上携わってきましたが、広島大学から松本歯科大学に異動したとき、先生方に歯科のパノラマX線写真による骨粗鬆症スケーリングの話をしましたが誰も知りませんでした。
本年1月、私と当院の整形外科の先生と2人で、骨粗鬆症と歯科との関わりについて病院職員を対象に学内講演をいたしました。以降、松本歯科大学病院では、放射線科で我々専門医が各種画像診断を行っている中で、もしパノラマX線写真上で骨粗鬆症疑いの所見があった場合は、患者さんにご説明して整形外科に紹介するというシステムを構築していただきました。大学病院では日本で初めてのシステムですが、こうしたシステムが全国で導入されればと願っています。
広島県呉市では医科、歯科だけでなく薬科、看護師、歯科衛生士、理学療法士などの医療関係者、それに呉市行政が参加した取り組みが始まっています。呉市の結果では、パノラマX線写真のスクリーニングで骨粗鬆症の疑いとして歯科医院から紹介された患者さんの95~98%が、実際に骨粗鬆症かその前段階の骨量減少という分類に入っていました。
—— 先生がこのスクリーニングをやろうと思われたきっかけを教えて下さい。
田口 歯科医師は日常的に歯科治療のためにパノラマX線写真を撮影します。その写真には顎骨という骨が写っていますから、この写真を活かして骨粗鬆症患者のスクリーニングを行えるのではないかと思ったのです。日本では歯科治療のためにパノラマX線写真が年間約1千5百万枚撮影されていますが、それが利用できないかと考えた訳です。
パノラマX線写真には歯科疾患に関連した所見以外に多くの情報が含まれています。それを使わないのはもったいないことです。65歳以上に限っても5百万枚は撮っています。それを使って骨粗鬆症患者を早期発見できれば骨折治療に掛かる医療費の削減にもなります。
—— パノラマX写真から骨粗鬆症を見つけるスクリーニングの状況について教えてください。
田口 広島大学にいた時には広島県歯科医師会の先生方と勉強会をやっていました。愛知県歯科医師会でもです。歯科医師は歯とその周囲の骨は普段から見ていますが、それ以外のところは見ていなかったのです。しかし、臨床経験の豊富な先生方は骨粗鬆症に関係するところを勉強していくとすぐに理解します。
ただし、理論的はそうだとしても医学的エビデンスを示さないと医科では認めてもらえないですし、もしかしたら実用的ではないスクリーニング法かもしれません。その根拠を示すのに20年くらいかかりました。そのために米国のワシントン大学にも留学し、エビデンスを積み重ねてきました。2004年に米国医学放射線学会広報部からロイター通信を通じて、パノラマX線写真から骨粗鬆症患者をスクリーニングする手法が世界に発信されると、いっきに世界に広がりました。
2004年以前、この研究に関する学術論文は私と英国マンチェスター大学の友人達が報告している程度でしたが、2005年からは凄い勢いで研究論文が増えました。当初懐疑的だった米国UCLAやハーバード大学からも論文が出ています。最近は特にブラジルで多くの論文が出ています。私は2004年にサンパウロ歯科医師会とサンパウロ大学に2週間招かれて講演を行いましたが、そこに聴講に来ていたブラジル全土の歯科医師が現在中心となっています。
<1型(正常):両側皮質骨の内側表面がスムース>
<2型(軽度~中等度粗鬆):皮質骨の内側表面は不規則となり、 内側近傍の皮質骨内部に線状の吸収>
<3型(高度粗鬆):皮質骨全体に渡り高度な線状の吸収と皮質骨の断裂>
【インタビュー】骨粗鬆症と歯科との関係(第2回)に続く
【セミナー】骨粗鬆症と歯科との関係(全17回)
※日本歯科新聞 2022年3月1日号掲載記事
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