【セミナーレポート】患者に寄り添う訪問歯科診療

セミナーレポート

2025/10/28

通院が難しい高齢者が増える今、訪問歯科診療には、外来診療とは異なる“診療の工夫”と“人に寄り添う力”が求められています。 しかし、限られた環境の中で「どう診るか」「どう支えるか」に悩む歯科医療従事者も少なくありません。

そうした現場で一つの答えを示しているのが、東京都・東新宿で自転車に乗って訪問診療を行う片桐博之先生です。 片桐先生が大切にしているのは、“歯科治療だけにとどまらず、その人の生活をより良くすること”。

本記事では、 「患者に寄り添う訪問歯科診療 ~患者を笑顔にする義歯製作・装着テクニックと会話力を学ぶ密着ドキュメンタリー~」 の内容を、第1回「在宅診療」編、第2回「特養での診療」編に分けてレポートします。

 

片桐 博之先生

講師:片桐 博之先生
医療法人社団参仁会
 佐藤歯科医院 理事長・院長


勤務当初より訪問歯科診療に従事し、
理事長就任を機に本格的に診療体制を拡充。

講師の詳細はこちら

第1回:在宅診療での歯科診療

在宅診療は、歯科医師が“患者の生活の場”に入っていく医療です。 そこは診療のために整えられた空間ではなく、食器が並ぶ食卓や家族の声が聞こえるリビングなど、日常そのものの場所。 訪問歯科医師は招かれた客として、その暮らしのリズムに寄り添うところから診療が始まります。

在宅の患者・Oさん
——外来を諦めた患者さんの義歯製作
第一回目:在宅の患者Oさん

脳梗塞の後遺症で右半身に麻痺が残るOさん。
義歯の製作は今回で2回目。かつては30分かけて外来に通い義歯を作りました。しかし、最初の義歯は痛みや違和感が強く、歯科医師と意見が合わずに通院を断念しました。食事もままならず困っていたところ、ケアマネの紹介で片桐先生と出会いました。

新しい義歯を装着したOさんは、驚いたように口を開きました。
「痛くない」「もっと違和感があると思っていました」
そして、少し照れくさそうに「今まで食べられなかった沢庵を食べるのが楽しみです」と笑顔を見せます。

診療の終わりにOさんが「片桐先生に見放されたらいやだなあ」と言うと、 先生は穏やかに「また来ますからね」と返しました。 その言葉に、Oさんは「地獄に仏ですよ」と笑います。在宅歯科とは、技術だけでなく、人との信頼とつながりで支えられる医療。
Oさんの笑顔が、そのことを静かに物語っていました。

この回では、以下の質問にもお答えいただきました(抜粋)
〇義歯の設計を決める際に、どんな点を優先して考えていますか?
義歯を清掃・管理できない患者さんには、どのように対応していますか?
印象をとるときに意識していることは? ?

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第2回:特養での歯科診療

特別養護老人ホームでの診療では、日常生活が困難な患者さんが多く、 その傍らには常に介護士や看護師など、患者さんを支えるスタッフがいます。 生活の場に“見守る人”がいる。それが外来や在宅とは異なる特徴です。

要介護3の患者・Iさん
——今まで使用していた義歯からの再製作
第2回目:要介護度3の患者さん

脳出血の後遺症で左片麻痺と右顔面神経麻痺を抱えるIさん。
車いすでの生活ですが、明るくユーモアのある性格で、診療中も笑いが絶えません。 長年使ってきた義歯のかみ合わせが悪く、今回、再製作を行うことになりました。

片桐先生は「長く使っていた分、最初は違和感を感じるかもしれません」 「これまでの義歯も、しばらくは捨てずに取っておいてくださいね」と穏やかに声をかけ、 患者さんの不安を先回りして和らげていきます。

装着後、Iさんはかみ合わせに問題ないことを確認すると「これは立派な義歯だ!」とジョークをまじえて笑顔でひとこと。 場が和み、スタッフからも笑いが広がりました。

 

要介護4・寝たきりの患者さん
——声なき声を聴く診療
第2回目:要介護度4の患者さん

寝たきりで、食事も流動食。会話による意思疎通が難しい男性。
家族の強い希望で、上顎の義歯を新しく製作することになりました。

片桐先生は、言葉でのやり取りが難しい患者さんにも「おはようございます」「少し触りますね」と穏やかに声をかけ、 指先の動きや表情など、わずかな反応を見逃さず、 “患者さんの意思”を感じ取りながら診療を進めていきました。

診療から数日後。患者さんの口腔内に咬傷が確認されました。片桐先生はその原因をつきとめ介護スタッフと共有し、装着手順をレクチャー。声にならない患者さんの思いを、チーム全体で支えていく姿が印象的でした。

この回では、以下の質問にもお答えいただきました(抜粋)
コロナ禍を経て、訪問歯科診療の現場はどう変わりましたか?
義歯を新しく作るか、修理で対応するかの判断基準は?
チーム医療の中で歯科が果たすべき役割とは?

すべての患者に寄り添うために
在宅・施設で支える歯科診療

通院が難しい高齢者に対し、“食べる”“話す”“笑う”を支える訪問歯科診療は、 単なる治療ではなく、“その人の生活を支える医療”です。患者本人だけでなく、家族や介護スタッフなど、関わるすべての人との信頼関係が、 診療の質を大きく左右します。

本記事で紹介したのは、その実践の一端にすぎません。
片桐博之先生のセミナーでは、在宅・施設それぞれの現場での義歯製作・装着の工夫、 
そして患者やスタッフとのコミュニケーションの取り方を、 豊富な映像とともに具体的に解説しています。

 

訪問歯科の現場を支えるすべての人に。
明日からの診療を変えるヒントが、きっと見つかります。

 

本セミナーは好評配信中。アーカイブは無期限でご覧いただけます。 ぜひご視聴ください。

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