周術期から生活習慣病まで、歯科医療の新たな連携モデル
中医協の資料から考える
2025/10/29
周術期から生活習慣病まで、
歯科医療の新たな連携モデル
歯科医療の役割が、口腔内にとどまらず、全身の健康を支える重要な柱として認識されるようになってきました。平成24年度診療報酬改定で初めて重点課題に「歯科」が明記されて以降(図1)、医科歯科連携は改定のたびにその重要性を増しています。本コラムでは、データに基づきながら、周術期から生活習慣病管理に至るまで、地域における「かかりつけ歯科医」の新たな可能性を探ります。
図1
連携の価値を証明! 周術期口腔機能管理
医科歯科連携の価値を最も明確に示したのが「周術期口腔機能管理」です。
千葉大学医学部附属病院の介入試験では、歯科医師による口腔機能管理を受けた患者群は、受けていない群と比較して、入院日数が消化器外科で約13日、心臓血管外科で約9.6日短縮されました。さらに、術後の合併症予防への大きな貢献も示されており、要介護者においては、専門的な口腔ケアによって2年後の肺炎発症率が19%から11%へと有意に抑制されたという報告もあります(図2)。
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このエビデンスを背景に、「周術期等口腔機能管理計画策定料」の算定回数は、平成24年から令和6年にかけて病院・歯科診療所ともに大きく増加しました。特に、歯科診療所における算定は、令和4年の2,820件から令和6年には4,048件へと急増しており、地域の歯科医院も周術期管理の重要な一端を担っていることがうかがえます(図3)。
図3
ワード解説
周術期等口腔機能管理計画策定料:
がん等に係る手術、放射線治療、化学療法、集中治療室での治療、その後の一連の治療、緩和ケアにおける一連の治療において、手術等をする保険医療機関からの文書による依頼に基づき、患者同意の上で、口腔機能の評価及び、口腔機能の管理計画を策定し、管理計画書を患者と周術期等の口腔機能の管理を行う保険医療機関に提供した場合の評価。(300点)
新たな連携:生活習慣病の重症化予防
そして今、歯科の役割は新たなステージへと進んでいます。令和6年度診療報酬改定の医科における診療報酬「生活習慣病管理料」では、糖尿病患者に対して、歯周病の診断と治癒のために、歯科受診を促すことが要件に盛り込まれました(図4)。
図4
これは、歯科が単に糖尿病の合併症である歯周病を治療するだけでなく、地域の生活習慣病の重症化予防を担うパートナーとして正式に位置づけられたことを意味しています。糖尿病と歯周病の密接な関連性を踏まええると、かかりつけ歯科医による継続的な口腔管理が、患者の血糖コントロールにも寄与することが期待されます。
この他にも、栄養サポートチームにおける歯科医療機関連携加算や、薬局との服薬情報等提供料など、多職種と連携するための評価は年々拡充されています(図5)。
図5
ワード解説
生活習慣病管理料:
脂質異常症、高血圧症、糖尿病を主病とする患者の治療において、生活習慣に関する総合的な治療管理が重要であることから設定された管理料。(医科)
未来のかかりつけ歯科医像は?
周術期から生活習慣病管理まで、歯科の専門性が全身の健康維持に不可欠であることが、制度的にも裏付けられてきました。これからの「かかりつけ歯科医」には、う蝕や歯周病を治療するだけでなく、患者一人ひとりのライフステージや基礎疾患を理解し、医科や他職種と積極的に情報共有しながら、口腔から全身の健康をマネジメントする視点が求められます。
“地域の病院やクリニック、薬局との連携体制をいかに構築し、実践していくか”が、自院の価値を高め、地域住民の健康寿命延伸に貢献する鍵となるでしょう。
■参考■
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