超高齢社会における歯科の役割
中医協の資料から考える
2025/10/14
超高齢社会における歯科の役割
在宅歯科医療の需要と供給のギャップから未来を考える
日本の総人口は減少局面にあり、2070年には高齢化率が38%台に達すると推計されています(図1)。65歳以上の者がいる世帯のうち、高齢者単独世帯または高齢者のみの世帯が6割を超え(図2)、要介護認定者数も増加の一途をたどっています(図3)。このような社会構造の変化に伴い、歯科医療の現場では「通院困難者」への対応、すなわち在宅歯科医療の重要性が急速に高まっています。
(図1)
(図2)
(図3)
本コラムでは、中央社会保険医療協議会(中医協)の資料を基に、在宅歯科医療を取り巻く現状と課題を読み解き、これからの歯科医院経営のヒントを探ります。
1. 高まる需要と供給の乖離
近年、歯科診療における「在宅医療」の件数は、すべての年齢階級で増加傾向にあります(図4)。しかし、その需要に対して供給が追いついていないのが現状です。歯科訪問診療を提供する歯科診療所数は全体の2割未満(病院においては1割未満)に留まっています(図5)。
(図4).png)
(図5)
特に、要介護高齢者における歯科訪問診療の推定需要数に対し、実際の供給数は約5割というデータも示されています(図6)。この需要と供給のギャップは、特に居宅療養高齢者で大きいことが明らかになっており(図7)、地域で暮らす歯科訪問診療が必要な高齢者が受診できる環境を整えることが喫緊の課題であることが伺えます。
(図6)
(図7)における歯科訪問診療の推定需要と供給.png)
2. 在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の現状と課題
在宅歯科医療の中核を担う「在宅療養支援歯科診療所(歯援診)」ですが、その施設数は令和2年以降、ほぼ横ばいで推移しています(図8)。歯援診の届出が進まない最も大きな理由として、「過去1年間の歯科訪問診療の実績 (4回以上)が不足している」が31.1%を占めています(図9)。
(図8)
(図9).png)
一方で、歯援診(特に歯援診1)の届出をした医療機関は、1施設あたりの1か月間の歯科疾患在宅療養管理料の算定件数が多く(図10)、在宅歯科医療の提供に大きく貢献していることも事実です。経営的な観点では、外来診療と比較して、訪問診療(同一建物居住者1人の場合)は1日あたりに診療できる患者数が少ないものの、レセプト1件あたりの平均点数は高いという特徴があります(図11)。
(図10)
(図11)
3. 診療報酬から見る在宅歯科医療の実態
歯科訪問診療料の算定状況を見ると、同一建物居住者数が4〜9人の「歯科訪問診療3」(令和6年度診療報酬改定後の評価区分)が最も多く算定されています。また、同一日に訪問する患者数が多くなるほど、20分未満の診療割合が増加する傾向が見られます(図12)。
(図12)
同様に、訪問歯科衛生指導料においても、単一建物で10名以上の患者を対象とするケースが最も多く、患者数が増えるほど指導時間が20〜21分に集中する傾向が強まっています(図13)。限られた時間の中で、いかに質の高い医療と指導を提供していくかが、今後の重要なテーマと言えるでしょう。
(図13)
4. 多職種連携の必要性と現状
在宅歯科医療の質を高めるためには、医科や介護分野との連携が不可欠です。しかし、「在宅歯科医療情報連携加算」の算定率は1.5%、「在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料」の算定も0.2〜3.3%に留まるなど、多職種連携がまだ一部にしか浸透していない現状が浮き彫りになりました。連携が進まない背景には、「ICTを活用した診療情報の共有体制の確保が困難(在宅歯科医療情報連携加算を届出していない理由)」、「依頼がないため実施していない(在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料を算定しない理由)」といった課題が存在します(図14と図15)。
(図14)
(図15)
5. まとめと今後の展望
超高齢社会において、在宅歯科医療の需要は今後も増え続けることが確実です。今回の資料からは、高まるニーズと供給体制のギャップ、そして多職種連携の遅れという大きな課題が示されました。
令和6年度の診療報酬改定では、質の高い在宅歯科医療を推進するため、歯科訪問診療料の評価が細分化され、後方支援を担う「在宅療養支援歯科病院」が新設されるなど、国も対策を進めています。
私たち歯科医療従事者は、こうした社会の変化と制度の動向を的確に捉え、外来診療だけでなく、在宅というフィールドにも目を向けていく必要があります。実績の要件や多職種連携の壁など、乗り越えるべきハードルは少なくありません。しかし、地域包括ケアシステムの一員として、通院が困難な患者さんの口腔の健康を守り、QOL(生活の質)の向上に貢献することは、これからの歯科医師、歯科衛生士に課せられた大きな使命と言えるのではないでしょうか。
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■参考■
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