日本歯科衛生学会 第20回学術大会レポート「歯科医療DXで変わる! 歯科衛生士の未来 ―知る、活用する、つながる―」
イベントレポート
2025/11/11
歯科医療DXは、歯科衛生士の未来をどう変えるか? ― 日本歯科衛生学会 第20回学術大会レポート
2025年11月2日から3日にかけて、昭和医科大学上條記念館(東京都品川区)にて「日本歯科衛生学会 第20回学術大会」が開催された。記念すべき第20回となる今大会のメインテーマは「歯科医療DXで変わる! 歯科衛生士の未来 ―知る、活用する、つながる―」。
2日間にわたり闊達な議論が交わされた昭和医科大学上條記念館。
歯科医療におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、単なる業務効率化のツール導入に留まらず、専門職である歯科衛生士の役割そのもの、さらには地域医療全体のあり方までをも変革しようとしている。全国から集まった研究者、臨床家、学生たちの熱気に包まれた会場の様子とともに、大会のハイライトとなったシンポジウム「歯科医院での働き方改革」での議論を中心に、歯科衛生士の「未来」をめぐる現在地をレポートする。
会場の熱量は「知る、活用する、つながる」を体現
秋晴れの週末、木目調の美しいメインホール(上條ホール)は、全国から集まった参加者たちの熱気に包まれていた。登壇者の一言一句に真剣に耳を傾け、メモを取る姿が印象的だった。
シンポジウムの様子。参加者一人ひとりが真剣なまなざしで聴き入っていた。
地下1階のD会場(富士桜)では、90題にも及ぶポスター発表や商業展示が行われた。ポスターセッションでは、日々の臨床や研究の成果について活発な質疑応答が交わされ、企業による商業展示ブースでは、最新のDX関連機器やAIを活用した解析ツール、話題の口腔ケア製品などが並び、参加者が足を止めて説明員と話し込む姿が見られた。
地下1階の会場では、日々の研究成果をまとめたポスター発表が行われた。
商業展示ブースもにぎわいを見せ、製品やサービスの仕組みについて質問を交わし、理解を深めていた。
4階の会場(赤松)で行われたランチョンセミナーおよび口演発表も活況で、臨床やDXに関連する多くのテーマが注目を集めた。
口演発表の様子。臨床に直結するテーマが多数報告された。
企業によるランチョンセミナーもキャンセル待ちの列ができるなど注目を集めた。
まさに「知る、活用する、つながる」という大会テーマを体現するように、会場の至る所でリアルな情報交換と新たなネットワークが生まれている様子がうかがえた。
歯科衛生士の専門性と業界の課題
大会2日目の11月3日に行われたシンポジウム「歯科医院での働き方改革」は、本大会のテーマをもっとも象徴するセッションのひとつであった。日本歯科医師会会長による基調講演を皮切りに、地域医療、労働法、SNS活用という多角的な視点から、これからの歯科衛生士のあり方が議論された。
シンポジウムの幕開けとして、日本歯科医師会の高橋英登会長が登壇。「歯科衛生士が日本を救う!」という力強いタイトルのもと講演が行われた。高橋会長は、感性が求められる歯科医療において、その専門性はAIに代替されるものではないとした。その一方で、日本の総医療費に占める歯科医療費の割合が約3兆円(約6.9%)と低い水準にあることなど、業界の構造的課題にも言及。歯科衛生士の専門性が健康な高齢者を増やし、日本の医療費を抑制することに貢献できるとの考えを示した。
多職種間における情報共有の重要性
続いて登壇した東京都豊島区歯科医師会の高田靖会長は、地域包括ケアの最前線におけるDX活用の現状を報告した。在宅医療の現場においては、訪問診療時に患者の容態が急変した際、DNAR(蘇生措置拒否)の情報が歯科医師や歯科衛生士に共有されておらず、患者の意向に反した救命措置が行われてしまう、といった問題があると指摘。こうした課題に対し、豊島区では医療介護専用SNS「MCS(メディカルケア・ステーション)」を導入。歯科衛生士が司令塔として中心的役割をはたす事例を紹介した。また、MCSには地域の多職種(医師、看護師、ケアマネージャーなど)が参加しており、患者情報をリアルタイムで共有している。こうしたデジタル面での取り組みと並行して高田氏は、多職種合同の研修会など「顔の見える」関係構築を地道に行うことの重要性も説いた。
専門性を支える「個」の力―法知識とSNS発信力
シンポジウムの後半は、歯科衛生士が専門性を発揮し続けるための「働き方」そのものに焦点が当てられた。
社会保険労務士の青山奈知氏は、「歯科衛生士の知っておきたい労働法」と題して登壇。労働条件通知書や年次有給休暇など、働くうえで自らを守るための法知識の概要を解説した。さらに、歯科衛生士は「超売り手市場」であり、今後その専門的価値がさらに高まると分析し、専門職としての価値に見合った、確かな法知識に基づく労働環境の整備が重要になるとの見方を示した。
続いて、「歯科衛生士とSNS」をテーマに、YouTubeチャンネル「AtoE チャンネル」で6万人以上の登録者を持つ歯科衛生士の竹之内茜氏が登壇。SNSは情報収集や採用・集患といった実務的な活用だけでなく、新たなコミュニティを形成し、個人の発信力を高め、仕事の幅を広げる強力なツールであると述べた。
会場から出た鋭い指摘:多職種連携の課題
シンポジウムの最後に行われた総合討論では、フロアから鋭い意見が寄せられ、本シンポジウムの核心を突く議論が展開された。特に多職種連携のピラミッド構造において、歯科が入りにくい現状への問題提起がなされ関心を集めた。
この総合討論を通じて明らかになったのは、歯科衛生士の未来が業界全体の構造的な見直しに依存しているという現実だ。今後は変革を加速させることで、歯科衛生士という専門職が地域社会においてより重要な役割をはたし、持続的な発展をとげるための鍵となることが示された。
歯科衛生士の「社会的役割」の変革
「診療室の司令塔」「多職種連携のハブ」「社会への発信」。これからの歯科衛生士には、AIやICTをうまく使いこなしながら、医療チームや地域、ひいては国民全体と「つながる」中心的な役割が期待される。一方で、総合討論で示されたように、旧来の業界構造という課題も横たわっている。
「歯科医療DXで変わる! 歯科衛生士の未来」というテーマを掲げた本学会は、DXが単なるツールの話ではなく、歯科衛生士という専門職の「社会的役割」のトランスフォーメーションそのものであることを強く印象づけた。
今大会のテーマが示された会場の案内サイン。DXによる「未来」への期待が込められている。
なお、第21回学術大会は、2026年9月20日・21日に埼玉県さいたま市の「Rai BoC Hall(さいたま市民会館おおみや)」にて開催が予定されている。「新たな時代における歯科衛生士の未来像」とは? この活発な議論は埼玉の地へと引き継がれていく。
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